研究・産学官連携の研究TOPICS 【研究者インタビュー】医学部皮膚科学講座 古賀 浩嗣 教授

【研究者インタビュー】医学部皮膚科学講座 古賀 浩嗣 教授

本学の研究活動は多くの研究者により支えられています。このシリーズでは、研究者を中心に、研究内容やその素顔を紹介していきます。

外科学講座について教えてください

外科学講座は、心臓血管外科、呼吸器外科、乳腺外科、肝胆膵外科、消化管外科の5つの部門に分かれています。私はその中の消化管外科を担当しており、特に下部消化管の手術、中でも大腸癌を最も多く扱っています。

現在、消化器外科医は減少傾向にあり、大きな問題となっています。緊急手術などのオンコール(呼び出し)が多く、ワークライフバランスの確保が難しい点が、主な要因の一つです。
しかし、外科手術は大変魅力のある分野です。だからこそ私は、「外科の楽しさ」が伝わり、若者が集まる「楽しい職場環境」を目指して、講座の環境づくりに注力しています。職場環境が魅力的であれば、志す若手医師も増えると確信しています。この取り組みの一環として、働き方改革を進めており、2023年には医局の大リフォームを行いました
リラックスできる空間をコンセプトとし、特に若い医師たちの子育てを支援するため、キッズスペースを配置しました。これにより、子供連れで休日出勤も可能となり、医師たちから大変好評を得ています。


カフェをコンセプトにしたリラックスできる空間
カフェをコンセプトにしたリラックスできる空間
靴を脱いで遊べるキッズスペース
靴を脱いで遊べるキッズスペース

研究者を志したきっかけと、現在の専門分野を選ばれた理由について教えてください

私は元々、医師ではなく教育者になりたいと考えていました。しかし、外科医であった祖父から「医師もまた教育者になれる」という教えをもらったのがきっかけで、医学の道へ進むことを決意しました。

初期は消化器外科全般を学んだ後、肝臓外科を専門分野としました。特に肝移植に携わり、博士号のテーマも肝臓移植に関するものでした。当初は「外科手術に学位は必要ない」と考えていましたが、上司の勧めで大学院に入学し、基礎研究を実践する中で意識が変わりました。

基礎研究では、物事を証明するためにはどうすべきかを深く考えながら進めることに喜びを感じるようになりました。臨床現場で抱いた疑問に対し、仮説を立て、証明の道筋を設計し、解決に導く。この一連のプロセスを繰り返すことで、研究への興味が湧いてきたのです。

今振り返ると、学位を取得したこと以上に、基礎研究に携わる時期を経験できたことが本当に良かったと思っています。

その後、内視鏡下手術を専門に行うようになったことを機に、現在は大腸外科を専門としています。


長崎大学での手術の様子
長崎大学での手術の様子

仕事で大切にしていることは、やはり質の高い手術を安全に行うことを一番に考えています。患者さんの手術をするときは、「自分の家族だったらどうするか」と自問自答しながら行うよう心がけています。
外科学はいわゆる“治療学”ですから、手術を受けた患者さんが元気になるときに最もやりがいを感じます。特に癌を手術で克服できたときは、手術が10時間以上かかろうとも達成感を感じることができます。

研究について教えてください

大学院生の頃行っていた研究は、移植免疫に関するものでした。消化管を専門にするようになってからの研究は、再生医療研究です。肛門温存手術を行った肛門機能を脂肪幹細胞を用いて回復させるものでした。

現在は、琉球大学との共同研究を行っています。本学の外科学講座では、主藤 朝也准教授が中心となってがんゲノムに関する研究を行っています。
現在、癌の治療はゲノム医療へと移り変わりつつあります。当科で手術により採取した標本を用いて、ゲノムを解析し癌の悪性度や治療に関する評価を行う研究を進めています。また、消化器癌に関する遺伝性疾患についても症例を集め、研究を行っています。
癌ゲノム研究をさらに発展させ、最終的に臨床応用するようなことができればと考えています。
ほかには、以前に移植免疫をしていたこともあり、免疫にはとても興味があります。現在、疾患が増加している炎症性腸疾患に関する免疫や腸内細菌と免疫の関係も大変興味があるところです。

いずれにせよ研究のための研究、すなわち論文を書くための研究にならないよう、あくまで実臨床に活かせるような研究を進めていきたいと思っています。


先生が大切にしていることを教えてください

何よりも人間関係は大切です。
人脈を築くことで、得られる情報は格段に増え、同時に自分の視点の幅も大きく広がります。ご自身のいる地域に留まらず、全国、そして世界の人たちと接して見聞を広めることが、外科医としての成長に不可欠です。

私自身、2001年から2年間、米国ロサンゼルスのCedars-Sinai Medical Centerへ留学する機会を得ました。留学の主な目的は内視鏡手術に関する研鑽で、多くの内視鏡下手術に参加し、実践的な学びを深めることができました。当時米国で広がりつつあったロボット手術が、現在では日本でも数多く導入されているのを見ると、時代の大きな流れを感じます。
この留学で多くのことを学びましたが、中でも最も今の自分に役立っているのは、そこで築いた人間関係に他なりません。

若手医師へのメッセージ

若い時期が、最も成長できる時期です。だからこそ、最初から全力で努力し、邁進してほしいと願っています。最近は円安や物価高騰の影響もあり、国内・海外留学を希望する若い先生が少なくなったように感じていますが、どうか小さな一つの領域に留まらず、若いうちに世界を見て視野を広げてほしい。
あなたの夢は、無限大です。

米国留学中(ロサンゼルス)
米国留学中(ロサンゼルス)

研究が行き詰まったときの対処法や、リフレッシュ方法を教えてください

研究とは全く関係のない趣味を持つことは大切です。私は毎朝ジョギングをしていますが、ジョギングをしているときには、いろんな思考がひろがって良いアイデアを思いつくことがあります。また、小説を読むなどして感動する気持ちを大切にすることも良いのではないでしょうか?

オペ室チームでリレーマラソンに参加
オペ室チームでリレーマラソンに参加
外科病棟の仲間とペイペイドームで野球観戦
外科病棟の仲間とペイペイドームで野球観戦

外科学講座について

若い先生方には、まず多岐にわたる経験を積んでいただきたいと考えています。特定の臓器に限定せず、あらゆる臓器の手術を経験し、基礎的な技術と知識を持った、いわゆるGeneral Surgeon(総合外科医)を目指してほしいと思います。また、診断と治療に必須の消化器内視鏡の手技についても、しっかりと習得していただきたいです。「何でもできる外科医」であることこそが、外科医という仕事の最大の醍醐味だと私は考えています。もちろん、キャリアを積む中で学年が進み、確固たる基礎ができた段階では、研究活動や、それぞれが興味を持つ専門分野の追求に進んで取り組んでいただいて構いません。

若手医師の教育については、「屋根瓦式教育」が理想的だと考えています。これは、一人の指導者のみがすべてを教えるのではなく、立場の異なる全てのスタッフがそれぞれの視点から教育に携わる体制です。初期の段階では、この体制のもとで広く経験を積み、多くの先輩から学びを得ることが重要です。その上で、自身の興味のある分野をじっくりと見定め、専門性を探索していくのが最善の道ではないでしょうか。

RMCPの学生と学会参加
RMCPの学生と学会参加

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略歴

1969年 長崎県生まれ
1995年 長崎大学医学部卒業、長崎大学医学部第二外科入局
1994年 山口県立中央病院(現山口県医療センター)勤務
1997年 北九州総合病院勤務
1999年 長崎大学医学部第二外科大学院入学
2001年 米国ロサンゼルスCedars-Sinai Medical Center留学
2004年 長崎大学病院移植・消化器外科 医員
2005年 同 助教
2015年 同 講師
2015年 同 病院准教授
2016年 長崎大学病院大腸・肛門外科 診療科長
2016年 中国南昌第二病院 客員教授
2017年 久留米大学外科学講座 講師
2019年 同 准教授
2023年 同 主任教授

属学会

日本外科学会、日本消化器外科学会、日本内視鏡外科学会、日本消化器病学会、日本臨床外科学会、日本大腸肛門病学会、日本ストーマ・排泄リハビリテーション学会、日本外科系連合学会、日本胃癌学会、日本腹部救急医学会、日本消化管学会、日本消化器内視鏡学会、日本臨床栄養代謝学会、日本癌治療学会、日本ロボット外科学会、SAGES (The Society of American Gastrointestinal and Endoscopic Surgeons)、SMIT (Society for Medical Innovation and Technology)、ACS(American College of Surgeon)

資格

日本外科学会認定医・専門医・指導医、日本消化器外科学会専門医・指導医、日本消化器病学会専門医・指導医、日本内視鏡外科学会技術認定医(大腸)、日本大腸肛門病学会専門医・指導医、日本胃腸科認定医・専門医・指導医、日本がん治療認定医、FACS、FJCS、Robo-Doc Pilot国内B級、ロボット支援手術認定プロクター(結腸・直腸)


研究TOPICS

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