研究・産学官連携の研究TOPICS 【研究者インタビュー】岡村 尚昌 教授

【研究者インタビュー】岡村 尚昌 教授

睡眠と心身のリズムを解明し、文医融合で一人ひとりのウェルビーイングを実現する

本学の研究活動は多くの研究者により支えられています。このシリーズでは、研究者を中心に、研究内容やその素顔を紹介していきます。

心理学と医学がクロスオーバーする、久留米大学ならではの実践的環境

私が所属している文学部心理学科は、第一線で活躍する多彩な専門家が集い、活発な研究と教育を展開しています。その大きな特徴は、学内での研究にとどまらず、社会の課題解決に直結する実践的な取り組みを積極的に行っている点です。地域の児童を対象とした「くるめSTP(サマートリートメントプログラム)」や、伝統産業である久留米絣協会をはじめとする地元企業との共同研究など、地域や社会と深く結びついた活動が広がっています。

私はまた、高次脳疾患研究所の研究員も兼担しています。高次脳疾患研究所では、睡眠リズムの主観的な評価だけでなく、活動量計を用いた客観的な評価や、唾液中のバイオマーカーの分析を行える環境が整っています。心理学が扱う『本人の感覚や心のリズム』と、医学が扱う『身体の生理的応答』の双方からアプローチできることは、研究者として非常に恵まれていると感じています。

「何気ない関わり」が人の心を変える──中学時代の経験

私は宮崎県で生まれ育ちました。子どものころは活発で目立つタイプの少年だったと思います。

中学2年時に、不登校傾向があり、クラスでも無口で地味な印象のクラスメイトが隣の席になりました。いつも宿題を出せずに怒られていた彼に、「合っとるかわからんけど写せ」と声をかけて、一緒に宿題を提出しました。そこから声をかけていたら、少しずつ話をしてくれるようになったんです。昼休みに一緒にお弁当を食べたり話したりするうちに、彼が毎日学校へ来るようになって。さらに『ちょっと運動した方がいいぞ』と部活に誘い、大会にも『チャリで一緒に行くだけでも面白いぜ』って連れ出しました。『あんなキツイ練習に付き合わされるなんて聞いてない』って後から怒られましたけどね(笑)

父にその友人の話をしたら「おまえは意識してないかもしれないけど、その子にとってみれば、学校に来て話せる人がいる、一緒にいる人がいるっていうことになっているんだよ」と言われ大変驚きました。何気ない関りが相手に影響を与えるということや、そもそも彼はどうして学校に来れなかったんだろうとか、話すとおもしろいのになんでみんなに話しかけないんだろうとか、いろいろと考えるきっかけになったできごとです。


大学進学、恩師・津田彰教授との出会い

両親が教員だったので教育学部へ行く道も考えましたが、もっと人の心について深く知りたいという想いがあり、久留米大学人間科学科心理学コースへと進学しました。

当時、学科にはストレス研究の第一人者である津田彰教授がいました。若くて熱気にあふれていて、講義がとにかく面白かったんです。心理学は単に困っている人や病気の人を支援するだけでなく『より健康でポジティブな面を広げる領域』でもあると教えられました。そして、ストレスや睡眠を本人の主観だけでなく、客観的なバイオマーカーで捉える重要性を学び、研究者の道を志すようになりました。

津田先生は心理学コースだけでなく、薬理学講座にも所属されていて動物実験もしてましたし、さまざまな経験をされていて、解釈の幅も広く、いつも勉強されていることが学生の自分にもよくわかりました。今でも先生に自分の研究を報告することはありますが、先生の発する言葉にはっとさせられることも多く、研究者としてとても尊敬しています。

また、大学では素晴らしい仲間にもたくさん出会いました。勉強だけでなく部活動や学内イベントなど、仲間と力いっぱい楽しみ切磋琢磨した時間は大きな財産となっていますし、当時の同級生は現在第一線で活躍している人も多く、今でもとても励みになっています。

大学時代
大学時代
大学時代
大学時代

「ソーシャル・ジェットラグ」を解明し、子どもたちの未来を守る睡眠教育へ

現在の主な研究は、「睡眠習慣」と「ソーシャル・ジェットラグ(社会的時差ボケ)」です。

ソーシャル・ジェットラグとは、平日と休日の起床・就寝時間が2時間以上ずれることで生じる体内リズムの乱れを指します。特に、小中学生を対象として、睡眠の位相・質・量、そして朝起きた時の睡眠休養感が、心身の健康や生活の質(QOL)、学業成績に与える影響を多面的に検討する研究に取り組んでいます。さらに,睡眠の主観的評価と客観的評価の乖離や,日中の眠気を介した因果メカニズムを縦断的に明らかにし,学校現場で実装可能な睡眠教育プログラムの開発と効果検証を目指しています。 

特に面白いと感じているのは、目的意識を持った睡眠短縮とストレス性不眠の違いです。勉強や目標達成に向けて意欲や達成感を持って睡眠を削っている場合と、不安やイライラで眠れない場合とでは、心身へのダメージや睡眠の質が全く異なります。この『心の状態と睡眠の質の関係』を科学的に解明し、学校現場で実践できる睡眠教育プログラムとして還元していくことを目指しています。


身近な例えと対話で引き出す、学生たちの「考える力」

講義は、健康・医療心理学や神経・生理心理学、心理学実験や、大学院の心理実践実習などの科目を担当しています。

講義では、学生の皆さんがイメージできる日常の場面と結びつけて説明するなど、わかりやすいことを意識しています。また、一方的に知識を伝えるだけでなく、グループディスカッションを取り入れて学生同士で議論させることで、自ら考えて、実践的なスキルが身につくようになってほしいと思っています。

近年の学生は、とても真面目で素直ですが、周囲の評価や失敗を恐れるあまり、自分の可能性にブレーキをかけてしまう傾向があります。『失敗しても後から修正すればいい。周囲の目を気にせず、自分に自信を持ってチャレンジしてほしい』と伝え続けています。

休日やリフレッシュの方法はありますか?

外に飲みに行くよりも自宅で家族の気配を感じながら過ごす時間がとても好きです。子どもたちは思春期になり近くに寄ると煙たがられることもありますが、その嫌がる姿もかわいいです。

子どもたちが寝静まった後、妻とお互いに好きなワインやウイスキーを嗜みながら海外ドラマを観たり、休日に子どもたちの部活動の応援に行ったり、家族で買い物に出かけたりする時間が、日々の活力源になっています。

健康面で気を付けていることは、食事の調整ですね。食べ過ぎた翌日は、食事量を減らして豆腐や野菜中心のメニューにするなど、すぐ調整するように気をつけています。睡眠については、寝る時間が遅くなっても起きる時間は変えないようにしています。たくさん寝ることで疲労が回復したり、不調が解消されるわけではないので、休日も平日と同じ時間に置き、リズムを大きく崩さないように気をつけています。

プライベート
プライベート
プライベート
プライベート

若い研究者や学生へのメッセージ

私自身は壁にぶつかった時は原点に戻るようにしています。また、ゼミの学生たちに『これどう思う?』と素直に意見を聞いてみることもあります。すると、自分の固定観念を打ち破るような、学生ならではの突飛で柔軟なアイデアがたくさん飛び出してきます。信頼できる研究者仲間との対話もそうですが、行き詰まったら一度フラットになることで新しい視点が開けていくと思います。

心理学は、自分自身の心と身体、そして社会との繋がりを深く理解するための非常に魅力的な学問です。高校生や学生、地域の皆さんには、日常生活の中にある『なぜ?』という素朴な疑問や探求心を大切に、知ることの楽しさを味わっていただきたいです。

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略歴

2003年03月 久留米大学大学院心理学研究科博士課程 修了
2017年10月 久留米大学医学部 博士
2018年 - 2020年02月 久留米大学高次脳疾患研究所
2020年03月 - 2025年04月 久留米大学, 高次脳疾患研究所 准教授
2022年04月 - 2025年04月 久留米大学, 文学部心理学科 准教授
2025年04月 久留米大学, 文学部心理学科, 高次脳疾患研究所 教授


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