地域貢献のTOPICS 全国的にも珍しい多職種共働プロジェクト ― くるめSTP 2025を開催
8月18日(月)~8月23日(土)の6日間にわたって、ADHD児のための夏期治療プログラム「くるめSTP(くるめサマー・トリートメント・プログラム)」が今年も開催されました。
昨年同様に久留米大学御井キャンパスを会場として、小学校2年生~5年生までの児童11名が参加し、通常の学級や通院治療では十分にアプローチしにくい学習スキルやソーシャルスキル、スポーツスキルなどの改善向上に取り組みました。
多職種共働で支える「くるめSTP」
「くるめSTP」は、今年で21年目の開催を迎える歴史あるプログラムです。その始まりは、2003年に小児科学講座の前主任教授である山下裕史朗先生(2024年3月退職)が、ニューヨーク州立大学で実践されていたペラム教授のSTPプログラムに出会ったことに遡ります。先生の尽力により、2005年、北米以外では世界初となる「くるめSTP」が立ち上がりました。
この治療プログラムは、NPO法人くるめSTPとくるめSTP実行委員会が主催し、久留米大学医学部医学科、看護学科、文学部心理学科、福岡県臨床心理士会、久留米市教育委員会に所属するスタッフ及び学生ボランティアの協力のもとで運営されている全国的にも珍しい多職種共働プロジェクトです。
ここには毎年50人以上の運営スタッフ(医師、看護師、教員、臨床心理士、事務局、学生)が参加し、それぞれの役割を果たしています。
【心理部会】リードカウンセラー・学生カウンセラー
STPのプログラムはスポーツの練習、スポーツの試合、グループでの問題解決討論、ソーシャルスキルトレーニング、その他の治療戦略が組み込まれています。くるめSTPは、医療部会、心理部会、教育部会の3つの部門で構成されており、それぞれが連携して効果的なSTP運営を担っています。
その中でも子どもたちのそばで一番深く関わるのが「心理部会」です。子どもたちの行動観察や評価は、医療・心理・教育の専門家及び十分な研修を受けた学生カウンセラーが行い、学生カウンセラーの指導と全体監修は臨床心理士の資格を持ったリードカウンセラーが行っています。
くるめSTPの開始当時より本学の心理学科の学生が学生カウンセラーとして参加しており、今年度は●名が学生カウンセラーとして参加しました。また、リードカウンセラー全員が学生カウンセラー経験者であるのも、久留米STPの特徴です。
学生カウンセラーの感想
寺田礼希さん(心理学科2年)
昨年はじめて参加しました。子どもたちの変化を目の当たりにし、リードカウンセラーの先生方や先輩から実践の中で教わることができ、素晴らしい体験でしたが、自分自身としては「できなかった」「真剣さが足りていなかった」と後悔も多く残りました。今年の参加については悩みましたが、昨年の後悔を乗り越えるという決意で参加を決めました。
今年も学生カウンセラーとして、一人の児童を担当し、彼と一緒に過ごしました。毎日二人で話し合って課題を考えたり、どうすればよりうまくいくか作戦会議をし、うまくいったら共に喜びました。
ほかにはレクリエーション係も担当しました。進行方法やルールや決まった声掛けなどは毎日お風呂の中で暗唱して覚えました。昨年の経験があったので、活動の意味をよく理解ししっかり準備して本番を迎えることができたと思います。落ち着いて、先生方のアドバイスを聞くこともでき、最後に「この子の担当は寺田さんしかいない。ようできとった」とリードカウンセラーの吉光先生に言っていただいたときはとても嬉しく、今年はやりがいを持って終わることができました。
自分の言動が子どもたちに影響すると思うと恐怖もありますが、子どもたちの行動が改善され一緒にそれを喜ぶこともできます。現場で活躍している先輩方から直接学ぶこともでき、くるめSTPの活動に参加して、心理学科で学ぶ意味、将来目指す場所が、はっきりしました。
古俣和香さん(心理学科3年)
くるめSTPの活動に参加して3年目です。1年目は特別支援学校の教師になることが目標のためADHDやその他の特性を持っている子どもの対応を学びたいと思い、2年目は1年目に経験して自分の未熟だったことを振り返り、特に子供対応を上達したくて参加しました。今年は公認心理師・臨床心理士になることが目標となり、2年間学んだ知識と経験を活かして、どうやったら子供が成長できる手助けができるか、現場で働いているリードカウンセラーの先生方がどのように対応しているかを学ぶために参加しました。実際に現場で働いている先生方に直接ご指導いただくことや大学生が担当児を持ち、直接対応しながら実践的に学べる貴重なボランティアだと思います。責任は大きいですが、やりがいがある活動です。参加されている子どもの成長した姿やその様子を見た親御さんの嬉しそうな姿などを見ると、とても達成感や喜びが湧いてきます。この活動をより多くの方々に知っていただき、たくさんの子供が関わることができたらよいなと思っています。
リードカウンセラー
多田泰裕さん(NPO法人くるめSTP、公認心理師・臨床心理士・特別支援教育士)
私は、久留米大学文学部心理学科に入学し、友人らとK-netというボランティアサークルの立ち上げに携わりました。発達障がいの子どもたちを支援することが活動の目的だったので、様々な研修会に参加し、医療・教育の支援者にお話を伺う機会をいただきました。2005年に、くるめSTPを日本で初めて行う際に、山下裕史朗先生からくるめSTPのことを教えていただいたことが、くるめSTPに学生ボランティアとして参加したきっかけです。その後、4年間学生ボランティアとして参加しました。ここで子どもたちの変わっていく姿を目の当たりにしたこと、尊敬する臨床心理士の先生方に出逢い、たくさんのことを教えていただいたことが心理職として働くきっかけになりました。社会人になってからは、リードカウンセラーとして、くるめSTPの運営や学生指導に携わる立場になりました。普段はスクールカウンセラーなどの仕事をしていますが、くるめSTPで出会った心理・教育・医療の先生方とは、顔の見える関係性が出来ており、そのネットワークを活かして、現場で連携しながら働いています。また、後進の育成に携わり、学生たちが現場で働くようになり、私自身様々な場面で後輩たちに支えてもらっています。学生たちは、研修を受けるだけでなく、現場で働いている多職種の専門家から指導を受けながら子どもの支援に携わることができます。くるめSTPのように、ADHDの子どもや保護者の支援だけでなく、地域の専門家の連携・後進の育成まで行うことができるプログラムが全国にひろがっていくことを願っています。