地域貢献のTOPICS 先端癌治療研究センター市民公開講座「あなたのがんを狙い撃ち プレシジョンメディシンの衝撃」を開催

先端癌治療研究センター市民公開講座「あなたのがんを狙い撃ち プレシジョンメディシンの衝撃」を開催

2025年10月25日(土)、久留米市の石橋文化会館において、久留米大学先端癌治療研究センター主催の市民公開講座「あなたのがんを狙い撃ち―プレシジョンメディシンの衝撃―」が開催されました。 当日は多くの方にお越しいただき、がん治療の最前線として注目される「精密医療(プレシジョンメディシン)」について理解を深めました。

先端癌治療研究センターは、「腫瘍免疫学部門」、「肝癌部門」、「分子標的部門」で構成され、がん医療の新時代を切り拓く研究と臨床応用を推進しています。

当センターの市民公開講座は、その3つの部門が順に担当する形で毎年開催されており、それぞれの専門分野に沿ったテーマで、最先端のがん治療に関する知識をわかりやすく伝えることを目的に行われています。

今回のテーマである「プレシジョンメディシン」は、腫瘍の遺伝子情報をもとに最適な治療法を選択するもので、がん治療は“万人に同じ治療を行う”段階から、“個々の特性に応じた治療を行う”時代へと進化してきています。

開会にあたり、センター所長の古賀 浩徳 教授が「がん治療はいま、遺伝子や分子レベルの理解をもとに、一人ひとりに最適な治療を届ける時代に入っている。地域の皆さまに、それらの正確な情報をお届けできれば」 と挨拶しました。分子標的部門長の主藤朝也准教授を座長に、婦人科がん、食道がん、放射線治療、大腸がんの4分野から専門医による講演が行われ、それぞれの領域で進む個別化医療の現状と将来展望が紹介されました。

挨拶する先端癌治療研究センター長 古賀教授
挨拶する先端癌治療研究センター長 古賀教授
座長を務めた先端癌治療研究センター分子標的部門長 主藤准教授
座長を務めた先端癌治療研究センター分子標的部門長 主藤准教授

講演内容

  1. 「ここまで改善した婦人科がん治療 -バイオマーカー治療を中心に-」
     医学部産婦人科学講座 西尾 真 准教授

  2. 「食道がん、きちんと知れば大丈夫!-最新治療と予防のポイント-」
     医学部外科学講座 森 直樹 准教授

  3. 「体に負担の少ないがん治療 -画像下治療の最前線-」 
     医学部放射線医学講座 田上 秀一 主任教授


  4. 「あなたはあなた。私はワタシ。-大腸がんのお話-」 
     医学部外科学講座 主藤 朝也 准教授 (先端癌治療研究センター分子標的部門長)

「ここまで改善した婦人科がん治療 -バイオマーカー治療を中心に-」 医学部産婦人科学講座 西尾 真 准教授

まず、医学部産婦人科学講座の西尾 真 准教授が、「ここまで改善した婦人科がん治療―バイオマーカー治療を中心に―」と題して講演しました。

婦人科がんの一つである卵巣がんに対して、その約半数に見られるBRCA遺伝子変異やHRD(相同組換え修復欠損)(※細胞のDNA修復に関わる遺伝子。変異や欠損があるとがんが発生しやすくなるもので、治療選択の重要な指標となる)に基づく治療選択が進んでおり、がんの“バイオマーカー”(病気の性質を示す遺伝的な指標)を活用した「PARP阻害剤」(※)の導入によって治療成績が飛躍的に向上していることを紹介しました。

また、子宮体がんでは、がん細胞により抑制された免疫反応を回復させ、体の免疫力でがんを攻撃する新しいタイプの抗がん薬である「免疫チェックポイント阻害剤」が新たな標準治療として注目されており、抗体と抗がん薬を結合させ、がん細胞だけに薬剤を届ける「ADC(抗体薬物複合体)」など、“がんを狙い撃ちする”新しい薬剤も臨床応用に近づいていることを報告しました。

※PARP阻害剤:DNA修復に関わるPARPという酵素を阻害することで、がん細胞の増殖を抑える薬剤。

講演する医学部産婦人科学講座の西尾 真 准教授
学部産婦人科学講座の西尾 真 准教授による講演の様子

「食道がん、きちんと知れば大丈夫!-最新治療と予防のポイント-」 医学部外科学講座 森 直樹 准教授)

続いて、医学部外科学講座の森 直樹 准教授が、「食道がん、きちんと知れば大丈夫!―最新治療と予防のポイント―」と題して講演しました。

講演ではまず、食道がんの治療について、病期(進行度)に応じて適切な治療法が選択されている現状について説明がありました。ごく早期の症例では、内視鏡治療によって根治が可能であることが、実際の症例を踏まえて紹介されました。一方、中等度の進行がんに対しては、手術療法や根治的化学放射線療法が行われています。

手術では、体への負担が少ない胸腔鏡下手術やロボット支援下手術が積極的に導入されており、これにより術後の回復期間が大幅に短縮されたことが、具体的な症例を交えて報告されました。さらに、切除不能例や再発・進行例に対しては、従来の抗がん剤治療に加え、免疫チェックポイント阻害薬を用いた治療も実施されています。

現在、久留米大学病院では年間200例を超える食道がん治療が行われています。これらの治療実績から、早期発見・早期治療による予後の改善が明らかとなっており、発がんリスク要因である喫煙や過度の飲酒への注意喚起がなされました。あわせて、早期発見を目的とした定期健診の重要性や、予防のために野菜や果物を含むバランスの取れた食生活を心がけることの大切さも強調されました。

講演する医学部外科学講座の森 直樹 准教授
森 直樹 准教授による講演の様子

「体に負担の少ないがん治療-画像下治療の最前線-」 医学部放射線医学講座 田上 秀一 主任教授

医学部放射線医学講座の田上 秀一 主任教授が、「体に負担の少ないがん治療―画像下治療の最前線―」と題して講演しました。

CTやX線、超音波などの画像を見ながら、血管カテーテルや細い針を用いて腫瘍に直接アプローチするIVR(Interventional Radiology:画像下治療)は、体への負担が少ない低侵襲がん治療として注目されています。田上教授は、IVRの血管系・非血管系のさまざまな治療法について解説し、特に頭頸部がんや肝がんにおける高い治療効果を紹介しました。

また、放射線治療や化学療法との併用によって局所制御率が大きく向上していること、久留米大学病院における治療実績や、治療前後での患者の生活の質(QOL)の改善例も紹介されました。さらに、治療に伴う副作用やリスクについても触れ、事前の詳細な説明とチーム医療による安全管理の重要性が強調されました。

講演する放射線医学講座の田上教授
田上教授の講演の様子

「あなたはあなた。私はワタシ。-大腸がんのお話-」 医学部外科学講座 主藤 朝也 准教授(先端癌治療研究センター分子標的部門長)

最後に、医学部外科学講座・先端癌治療研究センター分子標的部門長の主藤 朝也 准教授が、「あなたはあなた。私はワタシ。―大腸がんのお話―」と題して講演、近年、若年層で大腸がんの増加が見られることを背景に、生活習慣の見直しとともに、遺伝子情報に基づく精密医療の重要性について解説しました。

大腸がんの治療として現在行われている「手術」「放射線療法」「化学療法」「分子標的治療」「免疫療法」について解説し、個人に最適な術式を検討する手段として、日本で実施されている複数の「がん遺伝子パネル検査」の仕組みや、検査から結果判明までの流れについて詳しく解説しました。

「がん遺伝子パネル検査」は、がん治療の精密医療を支える中心的な技術で、がん細胞に存在する数百種類もの遺伝子を一度に解析し、その人のがん特有の遺伝子変化(変異)を明らかにします。そこから得られた情報をもとに、効果が期待できる分子標的薬や免疫療法を選択したり、治療抵抗性の原因を探ったりすることができるものです。

この検査は、講演のタイトルにもある「あなたはあなた。私はワタシ」とあるように一人一人異なる遺伝子をもとにした、まさにプレシジョンメディシン(精密医療)で、 久留米大学病院では、こうした遺伝子解析を診療現場に取り入れ、より精密で効果的ながん治療を実現しています(消化器病センターで実施)。その治療に至る流れを紹介しました。

講演する主藤 朝也 准教授
主藤 朝也 准教授による講演の様子

研究と地域をつなぐ“知の架け橋”として

講演後には、会場から寄せられる質問に各講師が丁寧に回答し、参加者からは「いつがんになるか分からない不安はあるが、がんの最新治療をわかりやすく学べて少し安心した。健診などでしっかり自分の体を見守っていきたい」「医療の進歩を実感した」といった声が寄せられました。

会場からの質問に答える田上教授
会場からの質問に答える田上教授
会場からはさまざまな質問が寄せられました
会場からはさまざまな質問が寄せられました

久留米大学先端癌治療研究センターは、今後も先端的ながん医療を地域に還元し、正確な医療情報を市民と共有する活動を継続してまいります。

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