研究・産学官連携の研究TOPICS 【研究者インタビュー】医学部生理学講座(統合自律機能部門) 中島 則行 教授
役に立つかどうか、それは「どっちでもええねん」の精神で知を広げる
節操なき好奇心がミリ秒の生命現象を解明していく。
本学の研究活動は多くの研究者により支えられています。このシリーズでは、研究者を中心に、研究内容やその素顔を紹介していきます。
所属部署について教えてください
生理学講座統合自律機能部門(生理学第二講座)は、久留米大学が大学院認可機構として成立するにあたり、アメリカから纐纈教三教授を招いて発足した歴史ある講座です。私は、赤須崇教授、鷹野誠教授に続く4代目の教授を務めています。
当講座は伝統的に、神経や平滑筋・心臓といった「興奮性膜」の電気生理学を専門とし、イオンチャネル制御など微小領域における分子メカニズムの解明に貢献してきました。現在は最新のイメージング技術も駆使し、ミリ秒単位で起こる生命の電気現象を、極めて高い精度で解明することを目指しています。
研究者を志したきっかけ、そしてこの専門を選んだ理由は何ですか?
もともとは『ファーブル昆虫記』を愛読する昆虫少年で、爬虫類なども調べるうちに「将来は学者になりたい」と漠然と夢見ていました。
大きな転機は中学時代の理科の先生の言葉です。「生命の研究をしたいなら医学部に行きなさい。医学部ではヒト(Homo sapiens)という一つの生物について、発生から老化・疾患、さらには社会行動までを体系的に学ぶことができ、生命現象を根本的かつ包括的に理解するには最適だから」というアドバイスで、当時の私にとって大学はまだ遠い存在であり、生命研究の場として医学部を捉えていなかったため、まさに目から鱗でした。
また、同時期にニュースで見たHIV治療薬「AZT」の開発にも衝撃を受けました。多様に変異して免疫をすり抜けるRNAウイルスを、根本的な増殖メカニズムから理解して核酸アナログひとつで効果を発揮するという「美しい戦略」に強く感銘を受けました。手当たり次第にウイルスや免疫に関する本を読み、HTLV-1を発見した高月清博士・日沼頼夫博士、AZTを開発した満屋裕明博士らが皆、医学部の出身であることを知りました。さらにRNAウイルス研究を推進していた京都大学ウイルス研究所の存在を知り、学部生でも自主的に研究参加できるという学風にあこがれて、京都大学医学部を志すことにしました。
ところが入学後、改変HIVを用いた研究は、安全性を考慮して学部生は携われないという状況で、いきなり壁にぶつかりました。そんな時、運命的に1回生の輪読会で配属されたことをきっかけとして生理学教室に出入りするようになり、医学の学習と基礎研究を両立するという想像していた通りの学生生活を送り始めました。このようなきっかけの積み重ねによって、生理学研究者としての道に進むことを決意したと思います。
現在はどのような研究を行っていますか?
主なテーマは、細胞の電気特性を決める「イオンチャネル」の解析です。心臓や神経でリズミカルな活動を生み出すペースメーカーチャネルなどが、どのように開閉し、どのような生理学的意義を持つのかを探っています。
特に注力しているのが「嗅覚マーカ蛋白質(OMP)」の研究です。成熟嗅細胞に特異的に発現する分子として発見されましたが、その機能は長らく不明でした。我々は、OMPがサイクリックAMP(cAMP)シグナル系の制御をすることや核外排出シグナルを持つことを発見しました。現在は、OMPのさらなる分子機能や嗅覚系以外での発現組織における役割を研究しています。マウスを用いた実験では、薬理学講座の西昭徳教授や疾患モデルセンターの塩澤誠司教授と共同研究を進めており、久留米大学のチームワークの良さに助けられています。また、医療検査学科の武谷三恵教授は生理学教室の同門で、精嚢平滑筋が自発的な活動を生み出すメカニズムについて、電気生理とイメージングの両面から研究しており、ディスカッションを通じて知見を共有しながら研究を進めています。
OMPの機能の一端は明らかにしましたが、その全身での機能は依然として「ブラックボックス」です。新展開として、中枢神経系や内分泌系でのOMP研究を開始し、自主的に参加している医学科・看護学科の学部生らもいますので、ともに広い視野をもち、フィジオロジーの原点に立ち返りながら研究を進めたいと思っています。
研究が行き詰まったときや休日はどのように過ごしていますか?
我々の領域での科学研究は、(1)既存知見に基づき、(2)対照と比較しながら介入実験を行い、(3)再現を確認する──というシンプルな作業の積み重ねです。仮説通りに結果が出ないことは日常茶飯事であり、その原因は知識不足か誤解にあります。行き詰まった時は、新たな知識を貪欲に取り入れ、仮説を立て直すことで突破口を見いだします。
専門領域の論文を読むのは当然ですが、広い知見を得るためには、他領域の医学・生物学に加え、数学、物理学、文学、歴史など、あらゆるジャンルの論文、書籍に親しみ、視野を広げるようにしています。ほかの科学分野、博物学分野などでも、上手なロジックを使って文章を作っているので大変参考になります。
研究以外のリフレッシュでは、私は妻と3歳の長男と一緒に昆虫採集や干潟体験、遠出(昨年は関西万博にも行きました)を楽しんでいます。捕まえた虫や魚の種類を特定するためによく観察しながら資料を読み、見たこともない外国の文化を体験し、ヒトと話すなかで視野が広がることが多く、楽しく遊んでる最中に「思いついた!」という瞬間もあるため、メモ帳は必須アイテムです。昨年9月に次男が生まれたので、長男とはまた違う個人としての成長を目の当たりにして、学ぶことが多く、日々が驚きと幸せにあふれています。
研究以外で取り組みたいことはありますか
九州の歴史、とりわけ古墳の成立や伝承、文化の発展に強い関心があります。久留米の郷土史を調べ、脈々と続く人々の生活観に思いを馳せています。特に田主丸を中心とした「かっぱ伝説」には強く惹かれており、筑後川流域におけるその正体や意義を探究したいと考えています。
若い研究者へのメッセージをお願いいたします
研究を続けると知識が増え、先の展開を予測できるようになります。すると「仮説の上に仮説」を重ねたくなりますが、まずはやはり実験することが大切です。生命現象は多対多の複雑系ですから、完全に仮説通りの数値や結果が出ることは稀です。仮説を積み重ねすぎると、途中の正確なメカニズムについての理解を失う危険があります。
しかし慎重すぎてもブレイクスルーは得られません。直感や勘を頼りに、可能性が低そうな仮説でも勇気をもって実験することが重要です。「分かった気になる」と実験をしなくなり、限られた知識で自然現象に挑むことになります。思わぬ現象に出会ったときに対応できるように、丁寧に仮説を立て実験を積み重ねていきましょう。
常日頃、そして実験をする前には、必ず絵を描きましょう。実験パラダイム、仮説と結果の関係、途中の反応経路、細胞の形、なんでもかんでも絵にするのです。映画作成における絵コンテみたいなものです。絵に描けることは、おおむね実現・実施可能です。絵に描けないことは、実験中や論文を書いているときに、わからなくなります。
最後に、研究を進める上では「不思議だな」、「何故か分からない」という疑問の解明を、研究する目的にしてほしいです。メカニズムの解明は(頑張れば)できることが多いです。しかし、「病気を治したい」とか「何かの役に立てたい」というフワっとした(=ゴールが遠い)目的は、人生をかけても達成できる保証はありません。同様に、「なんの役に立つのか」という不安がある場合は、いま自分が納得できる意義を自分で見つけてください。少なくともそんな不安をかき消してくれる、科学において常に正しいといえそうなことは、大量の情報を正確に覚えていることです。そもそも間違った情報もあるでしょうが、それすらも含めて覚えていることが大切です(=後日、定説を覆すことになるかもしれません)。不確実な目的意識に時間を取られることなく、“節操なく”知識を増やしてください。いつか役に立つこともあるし、役に立たないこともありますが、そんなの「どっちでもええねん」の精神です。
略歴
2007年 京都大学医学部医学科 卒業
2011年 京都大学大学院医学研究科 満期単位取得退学
2011年 京都大学大学院医学研究科 グローバルCOEリサーチフェロー
2012年 京都大学大学院医学研究科 生理学講座(神経生物学) 助教
2015年 久留米大学医学部 生理学講座統合自律機能部門 助教
2020年 久留米大学医学部 生理学講座統合自律機能部門 講師
2021年 久留米大学医学部 生理学講座統合自律機能部門 准教授
2024年 久留米大学医学部 生理学講座統合自律機能部門 主任教授